
中小企業の組織開発と採用の支援をしている「株式会社ほのおのうず」代表の山下です。
3月決算の会社では、10月から下期が始まりますね。
上期の振り返りや評価面談、下期の方針の共有が続き、経営者の方が社員の前で会社の考えを話す機会が増える時期です。理念や行動指針を掲げている会社なら、方針の説明の中で理念に触れることも多いと思います。
その理念を社員が日々の仕事の判断に使えるようになるかどうかは、メンバーの判断にいちばん近い場所にいる管理職に大きく左右されます。今回は下期の始まりに合わせて、管理職の役割から理念浸透を考えます。
理念浸透の現状と、理念を判断に使える社員の共通点
「働きがいのある会社研究所」が2026年8月に発表した「20代会社員の企業理念浸透と就業継続意向に関する実態調査」(対象:20代の会社員/n=330)では、勤務先の理念・価値観について「聞いたことがない」が38.2%でした。「聞いたことはあるが、内容はあまり説明できない」と答えた19.7%と合わせると、約6割が自社の理念を説明できない状態です。
パーソル総合研究所の「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」(2023年)でも、企業理念の「内容を十分理解している」と答えた人は41.8%。
理念はつくって終わりにせず、経営や評価、日々の意思決定で使われて初めて意味を持ちます。その点で、働きがいのある会社研究所の同じ調査には、もう一つ見ておきたい結果があります。
「経営層や上司が、理念・価値観を日々の仕事や意思決定に結びつけて伝えていると思うか」という問いには「あまりそう思わない」が39.7%と「全くそう思わない」が15.2%で、合計54.9%もの方々が「NO」という回答に。
一方、伝えられていると思う層では「理念を判断基準にできている」と答えた割合が76.5%でした。伝えられていないと思う層は11.0%で、その差は65.5ptにものぼります。

あくまで、この調査が示しているのは両者の関係で、上司の伝え方だけで差が生まれたとまでは言えません。理念をよく理解している社員ほど、上司の話を理念と結びつけて受け取りやすい面もあると考えられます。
同じ調査では、理念を「十分に」または「ある程度」理解していると答えた人でも、33.8%が仕事の判断基準には「あまりできていない」「できていない」と答えていました。理念を知っていることと、判断に使えることの間には距離があります。推測ですが、その距離を縮めているのが、上司が日々の仕事や意思決定に理念を結びつけて伝えることだと考えられます。
さらに、理念を判断基準にできている層では83.6%が働きがいを感じていて、できていない層の32.2%を大きく上回りました。今後も働き続けたいと答えた割合も、79.1%と40.8%で差があります。こちらも関係を示す数字ですが、上司が理念を仕事の言葉にして伝えることは、社員の働きがいや働き続けたい気持ちにもつながっている可能性があります。
この結果は私たちが考える「文化」の捉え方と重なります。会社の文化とは「どんなときに、どんな判断をして、どんな行動を取るのか」がそろっている状態のことです。
つまり、上司が理念を理解し、日々の判断に結びつけて伝えられなければ、理念は社員の判断基準になりにくく、判断と行動がそろった文化も育ちにくいということです。理念浸透は、管理職が理念を語れるかどうかから進みます。
実際に、パーソル総合研究所の調査でも、理念浸透の施策に「課長・リーダー」が登場すると、浸透にプラスの影響が見られたとしています。
経営者は旗を掲げ、管理職が語る
決して、経営者が理念を語る意味が薄れるわけではありません。
私たちが支援をさせていただく「従業員15〜50人の会社」は、部署はもちろん階層も増え始め、代表の声が全員に直接届きにくくなる規模です。
社員が10人ほどの段階では、社長が全員と日常的に話し、背中を直接見せることもできます。しかし人数が増えると、その役目の多くを管理職が担うことになります。つまり経営者と管理職の役割が明確に現れるのです。
- 経営者:会社として何を大事にするかという旗を掲げる
- 管理職:その旗を自分の部署の具体的な判断の場面に置き換えて、メンバーに語る
管理職の本来の働きを、私は「会社の考えを汲んで、メンバーに伝え、導くことで人材を成長させ、組織の成長にコミットすること」と考えています。理念を語ることは、この働きの中心にあるのです。
管理職が変わらなければ、現場のメンバーも変わりません。だからこそ、支援の中で大切にしている考えがあります。
管理職以上の視座や価値観の社員は、絶対に生まれない。
管理職が理念を語れるようになるには
管理職に「明日から理念を語ってください」とお願いしても、すぐに語れる方は多くありません。むしろほとんどいないはず。原因は語るためのステップの細分化、整理ができていないことが多いです。
おおよそ考えられる段階は、次のとおりです。
- 管理職が、理念とその意味を自分の言葉で答えられる
- 自部署での「理念に沿った行動」を理解している
- 管理職自身が、自分の業務で理念に沿った行動を体現している
この3つの段階を一つずつ進めることが、管理職が理念を自分の言葉で語るための準備になります。
私自身、以前は理念をつくる支援をしたあと、その会社で理念がどう使われているかを、定性的にも定量的にも追いかけていませんでした。独立を意識してこれまでの仕事を振り返ったときに、そのことに気づきました。今は理念をつくったあとも、管理職がこうした段階を進めていけるよう、一緒に確かめながら伴走しています。
管理職が理念を語るために、明日から試せる4つのこと
ここからは、管理職の方が明日から試せる方法を4つご紹介します。自部署の状況に合うものから取り入れてみてください。
1. 理念を、自部署の行動や判断に置き換えてみる
「自分の部署なら、どんな場面で、どう考え行動するのが良いのか」を書き出してみましょう。経営者と管理職ですり合わせることで、理念に込められた意味と管理職の受け取り方の差分が見えてきます。「理念について考えてみる」という視点でも、まずはここが重要なステップです。
2. 褒めるとき、指摘するときに、理念の言葉を添える
「先方の予定に合わせて納期を前倒ししてくれて助かった。行動指針の『お客様の成果から考える』そのものだと思う」のように、行動と理念の言葉をつなげて伝えてみましょう。これ見よがしに映るかもしれませんが、慣れるまでは、これぐらいストレートで大丈夫です。理念をもとに正しい行動は称賛し、正したい行動は年次や肩書きに関係なく指摘します。
この積み重ねで、メンバーは理念を、自分の行動を見てもらう基準として受け取るようになります。
3. 1on1やミーティングで、メンバーに判断の理由を話してもらう
パーソル総合研究所の調査では、全体説明会や社内報のような一方向型の施策が多く使われている一方で、ロールプレイを含む研修や車座・ワークショップのような双方向型の施策が、浸透にプラスの影響を与えていました。
日々の仕事の中でつくれる双方向の場が、1on1やミーティングです。メンバーに「あの場面でなぜそう判断したか」を話してもらい、管理職は「理念に沿っているか」という視点で受け止めてみましょう。自分の判断を理念の言葉で説明できるようになると、メンバーは次の判断も同じ軸で考えられるようになります。
4. 忙しいときこそ、理念を振り返る
判断軸や行動指針が染み付いていれば、つど迷う時間が減り、判断スピードや指示の的確さは増していくもの。管理職は、忙しいときこそ「理念=自社で大切にすべきこと」を振り返ることが重要です。
4つ紹介したものの、得てしてこうした取り組みの成果は、すぐには数字に表れません。最初に変わるのは、管理職やメンバーの発言です。しかし、発言が変わると考えも変わり、行動が変わり、必ず結果が変わります。その変化を日報・週報や1on1で確かめ合いながら理念が組織にどんな影響を与えているのか掴んでいきましょう。
まとめ
理念は、管理職が日々の判断の理由や行動の指針として使い、メンバーに語ったときに、じんわりと浸透し始めます。
下期の始まりは、管理職と一緒に理念の使い方を見直すのによい時期です。まずは一人の管理職と、理念の言葉を自分の部署の場面に置き換えるところから始めてみてください。
少しでもこの記事がみなさんの組織力の向上のきっかけになれば幸いです。
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